ダン族 タンカグレ マスク


来歴
ex. Merton D. Simpson Collection, New York, USA
ex. Private collection, Paris, France, acquired from the above 1980s
ex. C. Rolley, Paris, France

展示
Bourgogne Tribal Show, France

時代
19世紀後半

コートジボワールとリベリア国境のダン族のマスクです。
この仮面はダンの人々に信仰される、強力な森の精霊デュを表現するものです。
本作品は、ニューヨークの抽象表現主義の画家でありアフリカ美術のディーラーでもあったMerton D.Simpsonの旧蔵品でした。

造形

広い球状の額、尖って突き出た顎、鼻と口は高く浮彫にされています。
半眼の目は祖先の叡智を象徴し、世代交代の際に彫り広げられたスリットはマスクの神秘性を高める効果をもたらしています。
顔がハート型になるようアーチ状に彫られた眉は洗練されていて美しく、口唇は肉感のある豊麗な表現です。
大胆な抽象化が多いアフリカンアートの中では珍しく自然主義的な特徴を持つものと言えるでしょう。
神秘的な表情、眉と眼の繊細なバランス、豊かなパティナから内在的な力強さが豊かに感じられる作品です。

文化

仮面は男性の秘密結社のメンバーによって使用され、使われないときは家の祭壇で祀られ、女性が見たり触れることは許されない神聖なものとされていました。

ダンの信仰によると、デュと呼ばれる精霊は夢の中でメッセージを伝え、仮面のデザインを指示することができるとされています。この精霊は、超自然的な力を持ち、啓示を通じて共同体の生活に参加するのです。

それぞれの仮面は固有の名前を名付けられ、精霊を具現化したものです。なので、仮面には個性があり、着用する踊り手の仕草や話し方なども決まっていました。

精霊は、夢の中で名前と正体を示すため、彫刻そのものからは仮面の性質を具体的に特定することはできず、その仮面の持ち主だけが説明することができました。

仮面の所有者が世代交代した際、夢で精霊の指示がなければ仮面は身につけられず、何代も祭壇に安置されたままのものもあったようです。

仮面は一族の中で代々受け継がれ、精霊の権威が認められた仮面は、やがて村を代表する仮面であるグナグレや、司法の仮面であるグレワに格上げされることがありました。仮面は村の共同体の中で政治的、宗教的に重要な役割を果たしていたのです。

この仮面には黒いペイントが塗りなおされた層が三~四層あることを確認できます。目の形は持ち主が代替わりした際に、彫り広げられています。
何世代にもわたって着用され、その神聖な地位を高めたことが想像できます。
また、仮面の破損した縁の取り付け穴は、何世代にもわたって使い続けるために開け直されたもので、この仮面がいかに高い評価を得ていたか、そして非常に古いものであるかを物語っています。