アフリカンアートの光と闇


本物とそうでないもの

アフリカンアートにも「本物(authentic)」と本物ではないものの区別があります。

もともとアフリカンアートの多くは宗教的な儀式のために作られ、各部族の社会で信仰の一部となっていた重要な物です。

そのようなものは魂を込めて作られるので、美術的な価値も高く、なによりも彫刻や仮面が生命力を宿しているかのような魅力があります。

そのように伝統的なスタイルで、儀式のために作られた作品が「本物」とされます。

では、そのような重要なものがどれくらい市場に出回っているでしょうか。

答えとしては、本物の作品はわずかです。

例えば、この写真の仮面と彫刻は、すべて観光客のお土産用に量産されたもので、スタイルはオリジナルの作品からかけ離れており、彫りも弱いカリカチュアです。

このようなものは1~5万円ほどの価格で雑貨店などでも購入できますが、エスニックな雰囲気のデコレーションとして楽しむのは良いかもしれません。
アフリカはまだまだ貧しく、このような木工を収入源とする人は多く、その人たちを助けることにもなるかもしれません。

マーケットの現実

しかし、残念ながら、「これは実際に儀式に使われた古いものです」として偽って(場合によっては誤って)販売されるものが多いこともアフリカンアート市場の現実です。

ここでの、「本物」とそうでないものの定義は以下とします(欧米のオークションハウス、ギャラリー、コレクターはこれと同様の定義をしています)。


「本物(authentic)」…儀式など、伝統的な目的のために部族で制作され、使用の痕跡などが認められるもの。

「本物ではないもの」…販売用に制作され、古色を人工的に施したもの。

もちろん「本物ではないもの」にも様々なレベルがあります。

・部族の伝統的な彫刻家が販売用に作ったもの。
・美術館の図録や写真をもとに忠実に複製を試みたもの。
・間違ったスタイル、空想のスタイルで作られたもの。
・お土産アート。

欺くための贋作

ここでひとつ例を出すと以下のようなものがあります。

どうでしょうか?
一見古くて、何かの儀式に使われたものに見えるでしょうか。呪術像のようです。(この画像はヨーロッパのコレクターにより提供されました)。

答えとしては、完全にフェイクです。
表面の古色も儀式で使用されたかのように見せるために加工しています。

この彫像は、ブルキナファソのボボ・ディウラッソの偽造工房にて制作されたということが、ディーラーやコレクターの間で認識されています。
このように実際の伝統的文化では存在しないフェイクは「ファンタジー」と呼ばれることがあります。

このような形のスタイルのものを作る部族・文化は存在せず、「どうやったら人目をひいて売れるか」だけを考えて作られ、「本物」として偽って売られるのです。


以下に他のフェイクを例示します。

アフリカには多くのこのようなフェイクがあり、これらを本物と主張して偽って売る欧米人のギャラリーもいて、catawikiやebayで多く見かけます。

これらはお土産アートと同じく数万円で販売されます。

現地でのアフリカンアート事情

現在のアフリカ各部族の伝統的な儀式などは、かなり縮小された形で行われ、時には専ら観光客向けのものとなり、熱心に儀礼用の彫刻を作るということも減少しています。

これは、植民地時代に多くの美術品が欧米に持ち出されたこと、生活スタイルや宗教の変化が理由としてあります。

20世紀後半からは、ほとんどが販売用のコピー・フェイクの制作にとって代わられています。
アフリカを訪れたベルギーの美術商Didier Claesは「私が来た時、すでに40年は遅かった。アフリカは空っぽであった」と語っています。

クオリティの高いアフリカンアートのほとんどは、20世紀前半にヨーロッパに運び去られ、コレクターが購入する場合は、ヨーロッパの美術商やオークションハウスから購入することになります。

本物でないものにも収集価値はある?
これは私の関心ごとの一つですが、別のブログ記事にしたいと思います。